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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)1053号 判決

上告人

菊地政蔵

代理人

古沢斐

古沢彦造

被上告人

茂上信一

主文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄し、右部分につき本件を名古屋高等裁判所へ差し戻す。

理由

上告代理人古沢斐の上告理由について。

原審は、本件売掛代金債務は、一審被告菊地政悦とその父である上告人の両名が、被上告人との間で、政悦および上告人の両名を買主として締結した継続的な物品供給契約に基づいて生じた債務である旨、および上告人は、右債務の時効完成後、その残金の一部を支払うことによつて本件売掛代金残債務を承認した旨を認定したうえ、本件売掛代金残債務は、共同買受人である政悦および上告人において各自連帯して支払うべきものであり、かつ、上告人において傷務を承認した以上、その後右債務について消滅時効を援用することは、信義則に照らして許されないと判示している。

しかしながら、共同買受人であつても、その売買代金債務が、常に当然に連帯債務になるとはかぎらず、分割債務になることもあり、あるいは当事者の意思によつて不可分債務になることもあり、また、これが連帯債務になる場合においても、契約による場合もあれば(原判決の引用する一審判決の事実摘示によれば、被上告人は、連帯して支払う旨の約定があつた旨主張している。)、商事債務として法律上連帯債務とされる場合もあるのである。そして、かりにこれが連帯債務とされる場合においても、事情のいかんによつては、各自の負担部分には差異がありうるのであつて、民法四三九条が、連帯債務者の一人のために時効が完成した場合に、その債務者の負担部分については、他の債務者もまたその義務を免れる旨を規定し、他面、同法四四〇条が、その一人のした時効完成後の債務の承認のごとく四三四条ないし四三九条に規定された事項以外の事項については、他の債務者に対して効力を生じない旨を規定していることにかんがみれば、本件において、政悦と上告人の各負担部分のいかんは、上告人の本件残債務の時効消滅の有無またはその範囲を決するうえにおいて、無視しない事柄であるといわねばならず、単に債務承認の一事をもつて、直ちに信義則上本件残債務の全額について消滅時効の援用が許されないとすることはできない。

しかるに、原判決は、前記のとおり、本件債務の性質について充分に判示するところがなく、その結果、本件債務が何故に上告人および政悦の連帯債務となるのか、また、上告人が右債務の消滅時効を援用することが何故に信義則に反するのかにについても、その理由を明らかにしていないのである。したがつて、原判決は、以上の点において、連帯債務およびその消滅時効に関する法令の解釈を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきであり、この違法は、原判決の結論に影響することが明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして、右の点についてさらに審理をする必要があるから、右破棄部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(大隅健一郎 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)

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